
こちらは設計事務所で働く
若者が職場のメンバーと
浅間山の「夏の家」で過ごす
恋や成長を描く物語よ。

浅間山かあ。「夏の家」って
軽井沢の別荘みたいなとこ?

事務所を構える村井が設計した
夏を過ごすための家よ。
事務所のメンバーが集まり
夏の間はそこで皆で共に生活しながら
仕事をするの。

自然豊かな環境で暑い東京を
離れて仕事に集中できるなんて
いいじゃないか。東京では見れない
同僚の姿も目にするかもしれないな。
『火山のふもとで』松家 仁之 (著)新潮文庫
あらすじ
大学を卒業し、村井設計事務所へと入所した坂西徹。
時代が移っても変わらぬ美しさを持ち、使い勝手の良い建物を生み出す先生のもとで、事務所のメンバーたちとともに北浅間の「夏の家」に移動しコンペの作業へ集中していた。
先生が建物へ抱く静かな情熱、そして密やかな恋。
浅間山のふもとでのかけがえのない日々を美しく描き出す物語。
美しい自然の中で取り組む仕事と人々との関係性
フランク・ロイド・ライトの設計事務所に「徒弟」として勤め、アメリカでも数々の著名な建築物を手がけて来た村井俊輔の建物を見て歩くうちに、質実で時代に左右されない美しさを持ち使い勝手が良いことに惹かれた坂西は、事務所の扉を叩きます。
ここ数年、人を採らなくなっていた村井事務所ですが、無事採用のはこびとなった坂西。
七月末、事務所総出で資料や模型など仕事に必要なもの一式を三台のワゴンへ詰めこみ、浅間山のふもと、青栗村に建つ「夏の家」へ向かいます。
村井が設計したこの建物で夏の間事務所の面々が寝食を共にし、仕事を進めていきます。
村井の大学の後輩で事務長の井口が語る、夏の家で起こった過去の出来事を聞き、先輩である内田に仕事や料理の手ほどきを受け、事務長につぐ年長で穏やかな河原崎や、緻密な仕事ぶりで無口な小林、若手で良く気の回る由紀子、そして先生の姪で夏の家にアルバイトに来ている麻理子と個性豊かな面々が顔を合わせ、それぞれの仕事に励んでいました。
大事なコンペを控えベテランスタッフたちのやりとりを目にし、その一部をまかせられたり村井の仕事への姿勢や思いを垣間見ながら少しずつ成長していく坂西ですが。
まとめ
目に迫ってくるような夏の緑、勢いが弱まり少しずつ赤や黄を見せる寂しげな様子になっていく秋、そしてあたりを覆いつくす雪で静謐な空気が漂う冬。
こうした情緒豊かで生命のうつろいを感じさせる四季の描写は、最盛期を過ぎ秋から冬を迎えようとしている村井や、春のように包み込む由紀子や奔放で生命力あふれる夏のような麻理子など登場人物たちにもリンクしているようです。
色、空気、人の思い。
その全ての変化が美しく、そして二度とないかけがえのないものなのだと感じる物語です。
<こんな人におすすめ>
設計事務所のメンバーと共に夏の間を過ごす「夏の家」での出来事を描いた話に興味がある
美しい四季の移ろいや機能美が高く人の暮らしに馴染む建築を人々の感情の動きや成長とともに描く物語を読んでみたい
松家 仁之のファン


建物ってこんなに様々な思いが
込められているんだな。
村井のもとで働くことができた
坂西は『建物とは』という
根本的な部分から学ぶことが
できたんじゃないか。

豊かな自然の四季の移り変わりと
人々の人生における季節の変化が
リンクする、目にその情景が
浮かぶ美しい物語ね。
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