心の中は熱いのに表に出るサッパリ感が絶妙な北海道の作家たち

はじめに

心の中は熱い思いでたぎっているのに、表に出てくるのはクールな言葉と態度。室内は半袖でいることができるほど暑いのに、外はめちゃ寒い北海道そのもののような文体が魅力的な、北海道出身(あるいは在住)の作家さんの作品を紹介します。大げさな表現が苦手、かといって気づいてくれよ的な面倒なのも嫌だ、という方には心地よく感じられる作品たちではないでしょうか。

ストリッパーの生き方を熱さと冷たさを交えて描く

『裸の華』 桜木紫乃 著  ¥756 集英社文庫 

舞台上での骨折によりストリッパーとしての引退を決意したノリカ。心機一転、故郷の札幌で店を開きます。凄腕のバーテンダーと、二人の女性ダンサーにより、店は軌道に乗り始めます。自分の経験の全てを注ぎ込み、ダンサーたちが成長していく喜びやもどかしさを感じるとともに、強くなっていく「自分が踊りたい」という思い。ストリッパーとして極限に肉体を鍛え上げ、美しく見せることに、喜びと誇りを持つ一人の女性の姿を、情熱的に、しかし肉体的な部分や世間的に見られる目線など冷静な視点を持って描かれています。自分の体をここまで魅力的に魅せることに心血を注げるのかと驚きを感じるとともに、もはや裸も舞台で華やかに開く衣装のひとつなのではないのかと思わせる、北国を舞台にした、ストリッパーとして生きてきた女性の熱さと冷たさを感じる物語です。

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初恋パワー強すぎ!でも憎めない女の子たち

『恋に焦がれて吉田の上京』 朝倉 かすみ 著 ¥594 新潮文庫

札幌に住む吉田苑美は、23歳にして初恋が訪れ、しかもその相手を追って東京に出てきてしまいます。親友の前田が「正気かい?」と止めるにも関わらず、四十路のイノマタさんのいる場所を突き止め、さりげなく間合いを詰めていくのですが…。思い立ったら猪突猛進。一歩間違えばそれストーカーじゃ?という行動力を発揮する吉田。しかしそこはおぼこな娘、ただイノマタさんに会いたい、彼を知りたい、そしてその先は…。決してキャイキャイしたギャルではないのですが、驚くほど情熱的な部分を持つ吉田。そんな吉田に冷静にアドバイスや警告を与える前田。この二人の女性のやりとりが妙に年寄りくさくて面白いのです。見た目や言葉は甘くないのに、心の中と行動はかなりアツい!!でも心の中では妙に冷静に相手のことを分析していたりして。北の国の女性たちの強さと素直さが描かれた物語です。

吹く!震える!電車の中で読む際にはご注意を

『私のことはほっといてください』  北大路公子著   ¥670 PHP研究所 

北の大地が生んだ名エッセイストといえば北大路公子さんでしょう。年老いた両親とともに住む彼女はビールが友達。趣味は昼ビール。店に入ればまずおビール。それくらいビールが好き。大音量を響かせる父親の部屋のテレビから進む妄想、大好きな相撲への一家言を持つ彼女ならではの独特な見解、そして河童とひと夏の邂逅を果たす…。肩の力の抜け具合といい、真面目な顔してくだらないけどめちゃ面白いことを綴るその筆力に、底なしの才能を感じます。エッセイで下品や困惑の要素がなく、こんなに笑わせてもらったのは初めてかも。カラッと陽気で、北海道に住みながら寒さに対してとことん弱く、ビールをこれでもかと飲み、妄想に胸を震わせる。寒くてビール工場がある北海道だからこそ、公子さんの筆も冴え渡るのかもしれません。間違いなく吹く場面が多々ありますので、ビールを飲みながら、または電車の中で読まれる際には重々ご注意ください。

神様ありがとう。感謝の気落ちで涙する物語。

『すべての神様の十月』  小路 幸也 (著) ¥734  PHP文芸文庫

温かい話といえばこの作家さんではないでしょうか。本作品では死神、貧乏神など様々な神様が登場し、彼らと関わった人間たちが変化していく様子を描いています。神様ってどんなもの?その存在は普段意識したことがないものだけど、神様について考えることで見えてくるものがあります。神様という鏡を通じて、自分を見ることができるのかもしれません。そして、神は必要とされなくなれば去って行くのです。そして人間は神様と関わっていた記憶を消し…。寄り添い、本人が「気づき」を得るまで見守り、その確認ができれば姿を消す。冷たいようで広く包み込むように人間を見てくれている、そんな神様たちの存在に切なく、胸が熱くなります。どこかで神様が見てくれている、「やるぞ」という力を与えてくれるような物語です。

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まとめ

北海道出身の作家さんたちが描く物語は、感情や行動を過度に伝えようとしない、凝縮された言葉を用いたものが多いように感じます。寒い気候もあるのか、会話も行動も最小限に、しかしその陰影や、雪が照らす明るさのようなものも作中に漂っているような気がします。周囲の変化に大きく構え、どうにもならない状況にも決してあきらめない強さを持つ。でも無理はしないで引くときはあっさりと引く。そうした加減が、無理を重ねて疲弊する人間に眩しく映るのかもしれません。

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