こちらは虫好きの青年・魞沢泉が
訪れた先で出会う謎を解決
していくミステリー第二弾よ。
飄々としたキャラクターが
魅力的な男だよな。今回は
どんな謎に遭遇するんだ?
過去に見た幽霊の正体、
宿泊客が転落死した謎などの
真相を探っていくわ。
なるほどねえ。そうした謎と
話に登場する昆虫がどう関連
するのかも気になるな。
『蝉かえる』櫻田智也 (著)創元推理文庫
あらすじ
昆虫好きの青年、魞沢泉(えりさわせん)は旅先で様々な謎に出会う。
山形盆地で出会った青年が十六年前に見た幽霊、知人のペンションに宿泊していた客が転落死した理由、アフリカから帰国した友人が持ち帰ったもの…。
飄々としいた佇まいでその場の空気にするりと馴染む彼が、旅先で遭遇した謎と意外な真相を描く5編を収めたミステリー。
十六年前に見た少女の幽霊の謎
山形盆地の深い森を訪れた糸瓜京介は、大学で昆虫食を研究している鶴宮イツミと魞沢泉に出会います。
「御隠の森」と呼ばれるこの場所へ来た理由をそれぞれが話し、糸瓜は十六年前にボランティアとしてやってきたことを語ります。
当時、行方不明となっていた少女を探していたこと、活動を終えて帰る日、少女の幽霊を見たこと…。
学者としての鶴宮の見解は思い込みによる空想、というものでした。
釈然としない糸瓜ですが、二人きりになったときに魞沢は「糸瓜さんが見た少女は、たしかにあの場所に存在しました」と話します(「蝉かえる」)。
知人である丸江ちゃんのペンションへ荷物をおろし、丸江ちゃんおすすめのアクティビティ、急流くだりに向かった魞沢と丸江。
突中、車がパンクしてしまい立ち往生していたところ、一人の青年に助けてもらいます。
この青年、アサルは同じペンションの客で、自分が大切にしているスカラベのペンダントのこと、信仰している宗教のことなどを教えてくれました。
しかし翌日、アサルは崖から転落し、死体となって発見されます。
自殺か、それとも転落死なのか(「彼方の甲虫」)。
まとめ
虫の生態や民俗学的な虫のとらえ方など、多角的に虫をモチーフとして用いた5編のミステリーです。
虫の営みになぞらえ、人間が起こしてしまう事件は根底にやるせなさや強い悲しみが漂っています。
そんな中、ふんわりとした心やさしき青年・魞沢がフラットな雰囲気で現場に入り、少し離れた距離感ながら当事者たちをそっと見守るように寄り添い、真相を引き出します。
彼の大学生時代や、それ以前の頃の話も登場する、5編全てが強く印象に残る物語です。
<こんな人におすすめ>
虫好きの青年が旅先で謎を解くミステリを読んでみたい
前作『サーチライトと誘蛾灯』を読んだ
櫻田智也 のファン
ほわほわした魞沢が空気を
和ませてくれるなあ。
でも事件の背後にある人々の
悲しみや苦しみもしっかりと伝わってくる。
謎解きとしても秀逸だけれど
人間ドラマとしても楽しめる
ミステリーね。
前作『サーチライトと誘蛾灯』のイラストブックレビューはこちらからご覧いただけます。
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