こちらは自然の営みや動物、生物の
不思議な力に心を癒されていく
物語五編を収めた短編集よ。
ええ〜 なんだか難しそうな
世界だけど、どうやって
癒されたりするわけ?
シングルマザーの女性が
クジラの世界を知り
自身の生き方に
勇気をもらえたりするの。
ほう。クジラの世界の
どんなところが彼女の琴線に
ふれたんだろうな。気になるぜ。
『八月の銀の雪』伊与原 新 (著) 新潮文庫
あらすじ
断られ続ける就活、幼い娘を育てるシングルマザー、夢をあきらめた契約社員。
傷つき苦しむ彼らが出会った科学の世界と知識は、新たな一歩を踏み出すための力となる。
壮大な自然の営みや動物・生物の不思議さに包まれ癒されていく五編の物語。
傷ついた心に染み込んでいく科学の知
大学を一年休学後、復学した堀川は就活に励んでいましたがお祈りメールばかりが届く日々に苛立っていました。
ある日、かつての同級生である清田と遭遇。
仮想通貨のアフィリエイターをしているという清田に誘われ、顧客勧誘のためのサクラとして彼の仕事を手伝うことにした堀川。
ある日、よく利用するコンビニの外国人店員から「店にあった論文のコピーを知らないか」とたずねられます。
使えない店員だと思っていた彼女は大学院で地震の研究をしているのだと言います。
そして彼女は地球の内部、コアの話を語ります。
人間にも見える部分だけでなく、層があり核がある。
そう感じた堀川が選んだ道とは(「八月の銀の雪」)。
二歳九ヶ月の娘・果穂を育てるシングルマザーのわたしは、電車の中でぐずる娘を抱えていたところ七十歳くらいの女性に助けてもらいます。
博物館で働き、生物たちの挿絵を描くというこの女性、宮下さんと関わり、果穂を少しの間見てもらったり、クジラの生態や謎についての話を聞きながら、わたしは自分の過去を振り返り、自分は母親にふさわしい人間なのか、また果穂に何をしてやれるのだろうかと考えます(「海へ還る日」)。
まとめ
物事も人間も、表面だけではなくその中に核となるものが存在すること。
クジラは仲間同士で「子育て」し、よりよく響くと感じる歌を選びとること。
地球や生物の営みは、何故だか人間の生き様に通じる部分があります。
それは受け入れてもらえなかったり、不安や葛藤に苦しむ彼らの心にやさしく寄り添い、あたたかく包まれるような安心感をもたらしてくれることも。
知らない世界の知識が細やかに織り込まれていますが、どこか知っているように感じられる登場人物達の感情の機微とともにその光景が浮かび上がり、なめらかに頭の中に入ってきます。
未知の知は私たちの生きる世界のすぐそばに存在し続け、寄り添ってくれているのだということを感じられる、温かなものに胸を満たされる物語です。
<こんな人におすすめ>
科学の知識が人の苦しみにそっと寄り添うような物語を読みたい
自然の営みに心が救われる話に興味がある
伊与原新のファン
普段は意識していないけど
そこに存在している自然や
科学の知識が自分の心の
支えになることってあるんだなあ。
科学の力が傷ついた心を
やさしく包み込んでくれる
物語ね。
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