こちらは修行のために山へ
行った若者が現地で
連続殺人事件に巻き込まれる
イスラム世界を舞台にしたお話よ。
イスラム世界?宗教とか
関係あるのか。修行だもんな。
そんなシチュエーションで
殺人が起こるのか?
山には互いに関わりを持たない
他の修行者がいたのだけど
彼らに不審な死が起こるのよ。
舞台も状況も独特だな。
若い修行者はこの事件の謎を
解くことができるのか。
『火蛾』古泉 迦十 (著)講談社文庫
あらすじ
ヒジュラ歴六世紀。
西暦でいえば十二世紀ごろ、詩人のファリードは、高名な聖者の法燈を継ぐ人物、アリーの話を聞くために彼のテントへと訪れた。
アリーの口から語られたのは、若き主人公のアリーが体験した、姿を見せない導師ハラカーニーと四人の修行者が住まう山で起こった連続殺人事件だった。
修行中の山で起こる殺人事件
イスラーム神秘主義とよばれるスーフィーの行者であった若き日のアリーは、導師の指示によりウムラへと修行に出ます。
聖地メッカを目指し歩く道すがら一人の男に話しかけられます。
「修行者よ、どこへ往くつもりか。」
そうして始まった男とのやりとりの中で衝撃を受け、やがて彼の身体から光が射し、そしてアリーは気がつくと「山」にいたのです。
奇蹟が起きたのか、と考えながら山を登り頂に着くと、そこに一人用の小さな穹盧を建てます。
ろうそくを立て、アッラーの神に祈りを捧げていると外から「行者よ」と声がします。
それは導師ハラカーニーで決して姿を見せることはない、と翌朝山の別の場所で穹盧を建てているという、師兄と思われるシャムウーンから聞きます。
聞けば導師に師事しているのはアリーを入れて四人になるのだとか。
ある夜、導師から「カーシムの穹盧をたずねてみよ」と言われたアリーが向かうと、内から紐が結んであり、中に入れません。
紐を切り、中に入るとカーシムが額に担当を突き立てて倒れていました。
そしてまた、別の日には行者ホセインが首を切られた死体となり穹盧の上に載せられていました。
二つの殺人事件の現場の状況から、アリーは推理を働かせます。
まとめ
修行中の山で、行者たちの間で起こる連続殺人事件。
行者アリーが導師から投げかけられたことで起こる迷いや葛藤を抱きつつも、行者たちに起こった殺人事件の推理に挑むアリー。
現場の違和感や、血液が付着した状況を分析しながら、ある結論に達するのですが。
イスラームという馴染みのない世界で、宗教観を極める人々たちが描かれていますが、文章はわかりやすく、混乱することもなく読み進めることができます。
奇蹟や幻視が起こったり、また導師の言葉によって認識が変化したりと一体どこに着地をするのか?とページをめくる手が止まりません。
宗教と殺人が結びつきこんな形で展開し、結末を迎えることがあるのかと衝撃を受ける、他に類を見ないミステリーです。
<こんな人におすすめ>
イスラーム神秘主義と呼ばれるスーフィーの物語を読んでみたい
行者の修行中に起こった殺人事件の謎を解くミステリーに興味がある
宗教と殺人事件が絡まりあった物語を読んでみたい
奇蹟で済まされちゃうのか!?
と思いきや意外と論理的に
推理しているな。でもその結果
別の問題を引き起こすことになるとは。
宗教観やイスラムの世界を
垣間見ることのできる
異色のミステリーね。
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