
こちらは大きなお屋敷に
奉公することになった少女が
屋敷の中で目にしたことが
後から事件につながっている
ことに気づくミステリーよ。

奉公、ってことは今の
時代じゃないのか。
いつくらいの話なんだ?

戦後の頃のお話よ。秋田から
上京してきたよし江は女中頭の
聡子から厳しくしつけられるわ。
ある日、近所の御用聞きが行方不明に
なるという事件がありよし江のところにも
警察が話を聞きにやってくるの。

なるほどねえ。当時のしつけだと
お屋敷で起こったことは決して
口にしてはいけない、とか
ありそうだけどな。よし江は
何かを見たんだろうか?
『他言せず』天野節子 (著) 幻冬舎文庫
あらすじ
秋田から上京し、倉元家の奉公人となったよし江は、女中頭の聡子から「お屋敷の中で見たり聞いたりしたことを、他人に話してはいけません」と告げられる。
ある時、倉元家に出入りしていた御用聞が、配達の途中で行方不明となる出来事が2件起きた。
警察は彼らの足取りをたどり、訪問先の家をたずねるが彼らは口を閉ざしてしまう。
よし江もまた、倉元家で目にしたあることを警察に告げることができずにいた。
よし江が目にした倉元家の出来事とは
戦後の時代、秋田から上京して倉元家の奉公人になったよし江は、もう一人の女中である聡子から方言を治す方法や姿勢、礼儀作法などを厳しく教え込まれます。
何よりも屋敷内の出来事は外の人間に伝えてはいけないと告げられます。
屋敷には主人の宗一郎、瑶子夫人、主人と前の妻との間に生まれた大学院生の和樹、大学三年生の真希子、主人の義理の弟の青山信二郎と優子夫人、そして聡子とよし江の8人が暮らしていました。
その家柄に目をつけられ宗一郎に乞われて結婚したと言う瑶子はとても美しい女性でしたが言葉は少なく、何を考えているのかわからないところがある、とよし江は感じていました。
ある日、町の交番で御用聞の若者が行方不明になっている、と店の主人から相談を受けた警官は、半年前に同じような出来事があったことを思い出します。
二人とも地方出身のたくましい体つきをした御用聞の青年で、消息を断つ一件前に倉元家を訪問していたのです。
彼らが訪問した家庭を一件ずつまわり、警察は話を聞こうとしますが皆口を閉ざしてしまいます。
よし江もまた、ある日屋敷で起こったことを警察に伝えるか迷っていたのですが、聡子の教えが頭に浮かび、やはり何も伝えずにいたのでした。
結婚が決まり、お屋敷を出て夫と子供と暮らしていたよし江のもとに、ある日警察がやってきます。
それは倉田家の主人、宗一郎が自宅で亡くなったという知らせで…。
まとめ
忠義を尽くす奉公人の真意はどこにあるのか。
昭和の時代の美徳や主人に仕える人々の強い気持ちに驚きとともに尊敬の念すら覚えます。
襟を正し、背筋を伸ばして臨む揺るぎない姿勢はその人の糧となり輝かせせるものでもある。
そんな風に感じる物語です。
<こんな人におすすめ>
ある屋敷の奉公人が目にした出来事を描いたミステリーに興味がある
奉公人の心得や忠誠を細やかに描写した物語を読んでみたい
天野節子のファン


おお… 聡子の決意というか
尽くす気持ちというか
ハンパないな。圧倒される…。
そんな聡子に教え込まれたよし江
だからこそ芯の通った人間で
あり続けられるのかも。

忠義とは何なのか。その真相と
聡子の行動の意味が明らかに
なったときに衝撃と感嘆の
声が思わず漏れてしまう物語ね。
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