
こちらは昭和ミステリ三部作の
三作目よ。テレビが家庭に普及し
勢いを増していく中、ドラマ生放送中に
主演女性が殺される事件が起こるの。

は?ドラマが生放送??
本番中に殺人事件??
どこに驚けばいいんだ!

テレビ番組は様々な手法を用いて
制作しているの。ミステリ作家が
ドラマの脚本を書き、スタジオで
撮影を見守るのだけどその目の前で
事件は起こってしまうわ。

スタジオはある意味密室だよな。
ということは犯人はスタジオの
中に…?
『馬鹿みたいな話! 昭和36年のミステリ』
辻 真先 (著)創元推理文庫
あらすじ
昭和36年、駆け出しのミステリ作家である風早勝利は、学生時代からの友人であり、現在はCHK放送協会のプロデューサーを務める大杉日出夫の計らいでテレビドラマの脚本を手がけることに。
ようやく迎えた本番当日、何と主演女優が殺害される。
風早は美術担当の那珂一兵とともに事件の真相を探る。
本番中に起こった密室殺人事件の謎
昭和36年10月28日。
主役の中里みはるの姿が本番中に消えたまま、風早が脚本を書いた生放送のドラマは撮影を終了。
と同時にセットの一部でみはるの死体が発見されます。
本番中に起こった殺人事件。
一体誰が彼女を殺したのか。
時は昭和36年。
テレビが普及し、その勢いが増していく一方で興行成績が下降線をたどる一方の映画界よりも一段下に見られている部分もありました。
番組は内容からキャスティング、撮影方法まで知恵を絞り使えるものは何でも使う、といったスタンス。
そんな中、友人でありCHKのプロデューサーをしている大杉から、ドラマの脚本を頼まれた風早は苦労しながら何とか納得のいくものを作り上げます。
美術スタッフには、かつてその鋭い洞察力と推理を見せある事件を解決に導いた那珂一兵も参加。
キャスティングもそろい、限られた時間の中で打ち合わせを重ね、準備を進めていきます。
そうして迎えたドラマ生放送の本番。
オープニングのシーンを幻想的にこなし、撮影は順調に進んでいくかのように見えました。
ところが、主役の中里みはるの姿が見当たらないことに風早は気づきます。
まとめ
各家庭にテレビが普及し、手軽に楽しめる家庭の娯楽として浸透していった時代。
時計とにらめっこしながら生放送で番組を作り上げることが主流で、司会者も演技をする俳優もあらゆるハプニングに対応できる臨機応変な力が求められます。
また、ドラマも生放送という中でモノローグ場面や場面転換などもスタジオの作りやカメラのアングル、撮影技術を駆使して様々なシーンを生み出していく様子には、彼らの良い作品を生み出そうという熱い想いにあふれています。
スタジオという密室で、主役の命を奪った殺人事件は類を見ない設定、驚きのトリックに加え画面を通すことのない深い人間ドラマが根底に隠されているのです。
テレビ界の変遷を楽しみながら本格的な推理と華やかな業界の裏の影を鮮やかに描く、読後の余韻が長く残るミステリーです。
<こんな人におすすめ>
テレビ業界が勢いを持ち始めた時代に起こる撮影中に起こった密室殺人事件を描くミステリに興味がある
昭和ミステリシリーズ『深夜の博覧会』『たかが殺人じゃないか』を読んだ
辻 真先のファン

昭和ミステリシリーズ『深夜の博覧会』『たかが殺人じゃないか』のイラストブックレビューはこちらからご覧いただけます。

華やかな業界の影に隠された
悲しい物語でもあるんだな。
それにしてもこの時代の
番組制作すごいなあ。
お茶の間で正座してテレビ見るのも
わかる気がする。

この時代だからこそ、そして
生放送のドラマ撮影スタジオ
だからこそ起こり得た事件よね。
光り輝く一人の女性を照らした
心に残るミステリーね。
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