
こちらは怪異のまつわる住まいを
営繕していくシリーズ第三弾よ。
嫁をいびり続けた姑が亡くなった後も
まるで彼女がいるような気配に
満ちている家のお話よ。

ええ?死んだ後も嫁をいびろうって
いうのか?すごい根性の姑だ。
いったいどんな現象が起こるんだ?

壁をコツコツと叩く音がしたり
スマホに姑からの着信が何十件も
入ったりするの。

気味が悪いなあ。
嫁さんになんか危険なことが
怒らないといいけど…。
『営繕かるかや怪異譚 その参』小野 不由美 (著)角川文庫
あらすじ
何かにつけ順子を責め立て続けた姑の貴恵が亡くなってから半年。
いまだに解放された気がしないでいる。
貴恵が薬を飲む時間になると鳴り出す、壁をコツコツと叩く音。
スマホに何十件も入る貴恵からの着信。
ついには階段を踏み外し、怪我を負った順子を心配した義姉の組が紹介してくれたのは「営繕屋」だった。
姑が亡くなった後に起こる怪異現象
舅が他界し、残された姑との同居を提案された順子は、貴恵から気に入られていないことは感じていたものの、夫の協力のもと共に暮らしていけば何とかなるだろうと考え承諾。
しかし同居をはじめて三年、夫はあっけなく鬼籍に入ってしまいます。
足の悪い貴恵は息子を亡くした悲しみよりも「これからどうやって暮らしていけばいいのか」と怒りをあらわにしています。
そんな貴恵を目にして順子は放っておくことができず「自分がいますから」と口にします。
夫の姉、久美にもやめておいた方がいい、と言われますが久美の家庭でも舅の介護や受験を控えた子供がいて引き取るのは難しいのでは、と話すと久美は口ごもります。
食事を作れば「まずい」と目の前で捨てられ、皮肉が罵倒になり癇癪をおこすことも。
さんざん騒いで息を引き取り「これで終わったんだ」と感じた順子ですが、様々な怪異現象に悩まされます。
薬の時間になると響いてくる、壁を叩く音。
または杖をついた貴恵が廊下を歩く物音。
あげくスマホにはおびただしい数の貴恵からの着信が。
そして階段で誰かに突き飛ばされ怪我をしてしまいます。
そんな折、久美の紹介でやってきた営繕屋の尾端は「カーテンを替えませんか」と言い…。
まとめ
気性の激しい義母に言い返すことができず、置いていくこともできずに共に暮らし世話をし続けた順子。
姑が亡くなりようやく解放されたかと思いきや、未だ姑がそこに居続けているかのように思える怪異現象に悩まされます。
穏やかな尾端に、姑のことや家のことを話しているちに、順子はこの家に来た時に感じたことや、自分がどうしたかったのかを思い出していきます。
生きた人が亡くなった人を思い続けることでまた、亡くなった人もこの場から離れないこともあるのです。
姑へ言い返せなかった自分が、何故今も苦しめ続けられなくてはならないのか。
そうした順子の思いが姑をこの場にとどまらせているのかもしれません。
彼女が選んだのは、引っ越すのではなく、この家を自分にとって快適なものにリフォームし、また怪異が起こっても突っぱねること。
これまでの家と姑とのつながりを変え新たな一歩を踏み出すための営繕に、人の想いと恐怖、そして希望の光を感じる物語。
<こんな人におすすめ>
建物にまつわる怪奇現象を解決する営繕屋とその建物へ思いを抱く人々を描いた物語に興味がある
『営繕かるかや怪異譚』シリーズのファン
小野 不由美のファン


なるほどねえ。『言い返せなかった自分』の
思いが姑を縛り付けているってことか。
尾端の修繕は嫁さんにとっての快適な
環境を整えて少しずつ姑への思いから
遠ざけてやる手助けをしているんだな。

家と言う場所は誰にとっても
何かしら思いがあるもの。
そこを修繕することで
これまでと異なる家や家族との関係性が
生まれていくのかもしれないわね。
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