こちらはある女性をモデルに
描いた一枚の絵をめぐり
様々な出会いや奇跡を
紡いでいく物語よ。
へえ〜。どんな女性が
モデルになったんだ?
オーストラリアに留学に
来ていた女性なの。現地の男性と
付き合うのだけど、日本への帰国が
迫っていた時期にモデルを引き受けるの。
二人が離ればなれになる直前の
女性の姿を描いたのかあ。
その絵はその後誰の手に
渡ったんだろう?
『赤と青とエスキース』青山 美智子 (著)PHP文芸文庫
あらすじ
メルボルンの若手画家が赤と青の絵の具を使って描いた、女性をモデルにした一枚のエスキース。
ある夏から始まったこの絵をめぐる二人の絆は奇跡をつないでいく。
一枚の絵がめぐってきた旅
オーストラリアに留学中、期間限定の彼氏であるブーから頼まれ、画家の友人のモデルを引き受けることになったレイ。
画家のジャックには日本への帰国が近づいていることを伝えますが、下絵となるエスキースだけでいいと言っているのだとか。
モデルを引き受けたレイは、ジャックがペインティングナイフを握り、青と赤の絵の具を使ってキャンバスに向かう間、作画の様子を見に来たブーと見つめ合います。
積極的にコミュニケーションを取れずにいたレイに話しかけてくれたブーは誰にでも気さくに話しかけ、また話しかけられる人気者。
そんな彼から交際を申し込まれ、信じられない思いでいたレイに「帰国までの期間限定でいいから」と言うブーにそれならと頷くレイ。
喧嘩もほとんどせず、先の話も避けてきたレイはブーを見つめるうちに自分の本当の思いが溢れてくるのを感じて…(「金魚とカワセミ」)。
額縁の製造や販売を行う「アルブル工房」に勤めて八年になる空知。
発注は既製品が多く、手作業の注文は時間も金額もかかるため滅多に入りません。
そんな中、円城寺画廊の二人の男女が絵画を持ち込み、この絵に合う額装を、という注文が入ります。
中の一点を見た空知は、師匠の村崎さんに「この絵の額装をやらせてもらえませんか」と頼みます。
それは大学生の頃に行ったオーストラリア旅行で出会い、この絵の額を作りたいと思うきっかけを空知に与えてくれた絵だったのです(「東京タワーとアーツ・センター」)。
まとめ
レイをモデルに赤と青で描かれたエスキースは、日本の画廊の手に渡りぴったりの額装を得て、喫茶店の壁を飾り、ある男性の手から作者であるジャックの元へと巡ります。
絵は運命の額装職人と出会い、爆発的な人気作家となった後輩を持つ複雑な思いを抱える先輩漫画家、そして長年付き合ってきたけれど別れることになったカップルなどの人間模様を目にしてきます。
苦しんだり、辛いことがあったりもする人生ですが、その時を閉じ込めた絵の女性はいつまでも変わらずに存在し、それが見る者に何かを伝えてくれるのです。
絵がつないでいく、いくつもの人生の奇跡をしみじみと感じる物語です。
<こんな人におすすめ>
一枚の絵を巡る愛の物語を読んでみたい
人々をつなぐ不思議な縁と奇跡を描く話に興味がある
青山 美智子のファン
一枚の絵がいろんな人の
悩みや苦しみに寄り添って
きたんだなあ。
絵も人も「出会えて良かった」と
感じられるような、胸の奥が
じんわりと温かくなる物語ね。
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