こちらは認知症で一人暮らしを
しているカケイさんが周囲の
人とのやりとりから自分の人生を
振り返っていく物語よ。
認知症で一人暮らし?
大丈夫なのか??
ヘルパーさんとデイサービス、
息子のお嫁さんに助けてもらいながら
暮らしているわ。忘れることが多く
なってきて、昔のことを思うのよ。
認知症になることで
蓋をしていた過去の出来事が
溢れ出したりするんだろうか?
『ミシンと金魚』永井 みみ (著)集英社文庫
あらすじ
ヘルパーのみっちゃんに病院へと連れて行ってもらったある日、こう尋ねられた。
「カケイさんは、今までの人生をふり返って、しあわせでしたか?」正直考えたことがないからわかんなくて、仕方がないから自分の来し方を話すことにした。
自分を産んで母はすぐに死んだこと、結婚して子供が産まれるとすぐに姿を消した夫、赤ん坊を背中におぶって毎日ミシンを踏んでいたこと。
認知症となり、諦めと後悔を行きつ戻りつする老女が最後に見た幸福とは。
認知症のカケイさんが送ってきた人生
老女のカケイさんは認知症で一人暮らし。
デイサービスと訪問介護、息子の嫁らの力を借りて生活しています。
歩くことも、食べることも、排泄することも難儀になってきたカケイさん。
最近のことはすぐに忘れてしまいます。
例えば息子が2年前に死んだことを忘れ、息子の嫁に何度もたずねてはああそうだった、と思うのです。
一方で昔のことは昨日のことのように鮮やかに思い出すことができます。
兄が連れてきた男が自分の夫となり連れ子を置いて逃げたこと。
赤ん坊の娘をおぶって毎日毎日ミシンを踏み、出来上がった下着の仕上がりをほめられたこと。
娘の道子は誰にでも「かあしゃん」と呼び、カケイさんの兄貴にも可愛がられます。
兄貴は背中の彫りものを消し、自分の女にも消すように要求し、それができたら正式にに籍を入れ、道子を養女にする、と言いました。
カタギになると真面目に働き出した兄貴でしたが、おてんとさまは簡単には誤魔化せなかったのです。
玄関にある、火鉢に水を張った中で金魚やおたまじゃくしを眺めているのが好きだった道子。
その日も道子がおとなしくじっと見ているのを知っていたカケイさんは調子が上がったミシンを踏み続けます。
頭の中をからっぽにして、つらいことがラクになって…。
まとめ
認知症でこれまでの来し方を振り返りながら、今日という日を、今という時間を生きていくカケイさん。
その人生は多くの喜びや誇り、悲しみや諦めがありました。
そうした出来事のひとつひとつがカケイさんを作り上げたのです。
最期の時が近づくにつれ、悲しみや苦しみさえも淘汰され、花束のようにカケイさんを彩ります。
生きてきた時間はどれも美しい。
そんな風に感じる、読後に深い余韻の残る物語です。
<こんな人におすすめ>
認知症の老女の頭の中を描いた物語に興味がある
一人の老女の人生をふりかえっていく話を読んでみたい
永井 みみのファン
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